気がつくと自分は屋上のフェンスを乗り越えて立っていた。
忙しい毎日の中に思いやる気持ちというものを必死に探していたのかもしれない。
思いやりというものは歩み寄って来るものではない。
自分が欲しいと思っても手に入らないものだ。
上司にいつものように罵倒される。周りの人間は私を避けるように遠ざかっていった。
「自分はいったい何をしているのだろうか・・・。」
周りの人間は誰も信用出来ない。自分が本当に信じた人や愛した人にしか思いやりというものは出て来ないのだ。
(もう疲れたな・・・。)
屋上から一歩外へ踏み出そうとしたその時だった。
「待って!!!」
振り返るとそこには綺麗な長い黒髪の女性が立っていた。大きく潤んだ瞳で私を見つめていた。
「いっちゃダメ!!私はどうなるの!?」
彼女が必死に泣き叫んでいた。
「ごめん・・・。もう耐えられなくて・・・。」
俯く私に彼女は泣きながら言った。
「そんなに頑張らなくていいんだよ?私がいるだけじゃダメなの?
私がいつまでもあなたを支えるから!」
その言葉を聞いた途端に涙が頬をつたった。
「もう頑張らなくていいのかな・・・?」
「もういいんだよ・・・。」
「どうしたらいい?」
「一緒に居ようよ。私はあなたがいないと生きていけない。」
その言葉に私は天を見上げた。
(そっか・・・。僕は1人じゃないんだ・・・。こんなにも想いを伝えてくれている人がいるのに何をしているんだろう!)
フェンスを登り、降りた途端に彼女が抱き締めてきた。
「こんな事はもうやめてね・・・?」
私は涙を拭いながら頷いた。
「頑張るから・・・。君のために頑張るから。」
そう彼女に決意したその時だった。
なんと、彼女の身体が薄くなって今にも消えそうになっていたのだ。
「え?どうして?」
「私は未来から来た人間なの。あなたの死を止める為に現れたのよ。」
私はどうしていいか分からず涙が止まらなかった。
「じゃあ、今まで一緒にいた君は・・・。」
「そう。未来の私。今出会っている私とは違う私なのよ。私はあなたの死を知ったのは今日から2日後の事だった。原因を知っていたにも関わらず、あなたを止める事が出来なかったの。」
彼女は続ける。
「私はあなたの死をずっと悔やんでいた。どうしてあの時に助ける事が出来なかったのか・・・。どうして思いやりの言葉を掛ける事が出来なかったのかと。一言伝えていたら変わっていたかもしれないのにとずっと悔やんでいたわ。」
彼女が微笑んだ。
「そんな時にあなたを想いながら目を瞑ったら、過去に戻る事が出来たの。きっと、あなたを助ける為に神様が授けてくれた一回きりの時間だったのかもしれない。」
消えかかる彼女を見て、私は涙が止まらなかった。
「現実世界の彼女が待っているよ。私が想っていた気持ち・・・。彼女に使ってあげてね!」
そういうと彼女はスッと姿を消した。
「まだちゃんとお礼も言えてないのに・・・。」
涙が止まらずにクシャクシャな顔のまま、私は天を見上げそっと口を開いた。
「ありがとう。未来の君の分も頑張って生きていくよ。」
私は会社を辞めて、現実世界の彼女と今日も過ごしている。彼女はいつも笑顔で私にくっついて来てくれる。あの時、過去の君が来てくれていなかったら一体どうなっていた事か。
今日も想いを持ちながら、思いやりをみんなに伝えている。
想いやり

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